これはほんのチョッと前の出来事です。書こうか、やめようかずぅ~っと悩んで・・はいませんがなんとなく書きそびれてしまって・・・ |
老人が二階の窓辺に腰掛けてジッと通りを眺めている。べつにこれと言って特徴のないごく普通の老人である。やや痩せ気味でどちらかと言えば白髪頭、眼鏡はかけていない。パジャマ兼用なのだろうか、チョッとくたびれた感じのグレーのスウェットを着て無表情に通りを眺めている。 |
本当ならまるで気に留めることもなく通り過ぎていくであろう光景である。 |
ただ・・・。 |
今は深夜、夜中の11時50分をまわろうかという時間。しかも暮れも押し詰まった12月の30日。このあたりでは珍しい雪がちらつく寒い夜である。 |
『あらまぁ・・・あのおじいさん何してはるんやろ?』私でなくても少しは気になるんじゃないでしょうか? |
つい視線がそちらに向いてしまう。窓は木枠のガラス窓で四枚の引き戸式になっているようである。それがガラリと大きく開けてある。その窓枠に半身を乗り出すようにして老人が無表情に腰掛けている。(もっともこんな時間にニコニコ笑いながら通りを見ていたら違う意味で恐いけど・・・。) |
老人の部屋の明かりは消えているが、街灯の光が部屋に射し込んでいて柱時計の白い文字盤がぼんやりと見える。 |
『この寒い夜中に・・・おじいさん風邪ひきまっせぇ~』などと他人ながらおせっかいな心配を胸にその窓の下を通り過ぎようとして、なんとなく見上げてしまう。 |
『え???』 |
老人の後ろから柱時計の間の天井がない・・・。老人の背後に街灯に照らされてちらちらと舞う雪が光っている。 |
老人の部屋の天井のあるべき空間には黒々とした柱や梁、崩れ落ちた屋根の残骸がシルエットとなって浮かび上がっていた。 |